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技術を極めた「ジロー」と、自由を求めた「メビウス」 ── 2つの顔をもつBD界巨匠の晩年

COLUMN

MANGA

2018.07.13 FRI

「ジャン・ジロー」と「メビウス」、2つの名を持つBD作家は、晩年、もはやBDにとらわれない純粋な芸術家として、映画・音楽・アニメーションなどさまざまなジャンルで活躍することとなる。彼の半生を紹介してきた本連載、最終回は彼の晩年の仕事にフォーカスしたい。

ジャン・ジローとメビウスの融解

アレハンドロ・ホドロフスキーとの出会いにより、映画の制作にも携わるようになったジローは、1980年中盤にアメリカ・ロサンゼルスに生活の拠点を写す。1988年にはアートブック『メイド・イン・LA』を出版し、同時期には、アメコミの最大手「マーベル」の作品である『シルバーサーファー』の作画を担当するなど、「メビウス」として精力的に活動を続ける。

その後、フランスに戻ってからも、活動の幅はさらに広がり続ける。96年には、自身の回想録『メビウス/ジロ ── 我が分身の物語』を出版。そして97年には、日本の雑誌『モーニング』で『イカル』の原作を担当し、谷口ジローとタッグを組むなど、60代に差し掛かっても、ジャンルや国を超えて、新たな挑戦を続けていた。

ジョゼフ・ジラン(ジジェ)、アレハンドロ・ホドロフスキー、時にカルト教団のリーダーなど、両親の離婚によって父不在の環境で育ったためか、常に“父親的な存在”を追い求めて来たジローだが、この頃になると、師を求めることをぱたりとやめたようだ[1]

そんな頃に、彼が名前を「ジャン・ジロー・メビウス」と綴り始めたのが、『インサイド・メビウス』という作品だ。

日記として書きためていたクロッキーをもとにペンタブレットで書き出されたこの作品は、メビウス=ジャン・ジロー自身を主人公として、2004〜10年に全6巻にまとめられた。「自伝的だし、精神的(プシシック)」[1]でもあるというこのBDは、彼の直感に基づいて描かれたといい、そのタイトル通り、メビウスという人物の中身を知るには最適な作品と言えるだろう。

メビウスの集大成『B砂漠の40日間』

メビウスの“直感”をまざまざと感じさせる作品が、もう一つある。1999年に出版された『B砂漠の40日間』だ。『アルザック』などで登場する「B砂漠」が舞台となっており、セリフ・コマ割りは一切ない。砂漠の中に鎮座し、瞑想する「帽子の男」とその周辺をただただ描いた一枚絵の連続作品となっている。

特筆すべきは、この作品は下書き・修正が一切ないということだ。0.2と0.13のロットリングのみを使い、壮大な砂漠、光、影、水滴、人物、動物の群れ…全ての物質をシンプルな線で、淀みなく紡いでいく。

この作品を制作中、昼間は『ブルーベリー』の執筆をしていたという彼は、メビウスとジローの違いについて、自らこう語っている。

「『BLUEBERRY』は造形上の厳格な形式的約束事に基づいて描かれています。そこに西部劇という物語上の要請も当然加わってきます。それに対してメビウス名義で描かれた作品は、非常に技巧的ではあっても、夢幻的な自由とでも言うべき空間の上に成り立っているんです。『技巧的かつ自由である』と言うパラドクサルで、一見矛盾するもののように聞こえるかもしれませんけどね」[3]

BDの技術を極めたジロー、そして自由を追い求めたメビウス ── 。緊張を内包したこの関係を一つの作品として昇華したのが、この71ページの一作なのかもしれない。

決して古くならない作家、ジャン・ジロー=メビウス

2009年、京都精華大学、そして京都国際マンガミュージアムで、講演会・企画展「メビウスの世界」が開かれ、ジャン・ジロー=メビウスもフランスから招かれる。この講演会を機に、『B砂漠の40日間』をはじめ、『アンカル』、『エデナの世界』などの邦訳が続々と登場し、日本でも改めて彼の名が知られるようになる。

それからわずか3年後の2012年3月10日、彼は76歳でその生涯の幕を閉じることとなる。彼の祖国フランスの新聞では、彼の訃報を「2人の作家を失った」[4]と報じ、さらに日本でも大友克洋氏や、谷口ジロー氏、そして宮崎駿氏と名だたるアーティストたちがその死を悼んだ。

「ずーっと新しい絵。古い絵にはならないんです。いつ見ても最先端な感じがする」[5]

同年、メビウスの追悼特集を組んだ『ユーロマンガ』に浦沢直樹氏が寄せたコメントの通り、ジャン・ジロー=メビウスの作品はーーたとえ発刊後40年が経ったものであったとしてもーー古さを感じさせることはない。むしろ精巧で緻密な描写は、眺めるたびに新たな発見をもたらしてくれる。

子供が読むもの、ストーリーを楽しむもの……。ジャン・ジロー=メビウスは、BD、そして漫画にあったそんなイメージを払拭し、BDをアート、そしてカルチャーとして進化させたパイオニアといえるだろう。

取材・文:周東淑子
監修:原正人
撮影:林 和也

【参照】
【BD研究会レポート】メビウス追悼 ダニエル・ピゾリ氏が語るメビウス〔メビウス編〕
『メビウス博士とジル氏』(ヌマ・サドゥール著、小学館集英社プロダクション、2017年)
「ユーロマンガ」vol.7 (Euromanga合同会社、2012年)
『アンカル』(アレハンドロ・ホドロフスキー作、メビウス画、古川晴子訳、ユマノイド、2015年)

【注】
[1]『メビウス博士とジル氏』サドゥール、p410
[2]同、p461
[3]『B砂漠の40日間』メビウス、あとがきより
[4]『ブルーベリー』訳者、あとがきより
[5]『ユーロマンガ』vol.7 、p57

もっと光を! アイデアと“夢のエネルギー”で画面の牢獄から抜け出した電子ゲーム『大脱走』

REVIEW

GAME

2018.11.16 FRI

ゲームがデータとして供給されるようになった現代から、遡ることおよそ40年の昔。当時、ゲームとはソフトでありハードであり、単一の“モノ”を指していた。

『電子ゲーム』。この80年代を代表するアイコンを単なる懐古趣味ではなく、ゲームが形を持たなくなった時代の崇敬すべきフェティッシュとして見直していくのが本連載の趣旨である。

日本の子供たちがこれまでになかった新しいおもちゃ、電子ゲームに熱狂していた1980年前後。しかし、視野を広げてみればこの時期は1978年のイラン革命を発端にした原油価格の上昇と供給危機、いわゆる第2次オイルショックの時期と重なる。そうして1980年にはNEDO(新エネルギー総合開発機構)が創設され、太陽光エネルギーに注目が集まっていた……。

そんなエネルギー情勢の中で1982年に登場したのが、バンダイのLCDソーラーパワーシリーズの電子ゲーム『大脱走』である。

『大脱走』(バンダイ/5400円 1982年)

「電子ゲームにソーラーパネルを使用したのは、バンダイのLCDソーラーパワーシリーズが初めてだと思います。電池が無用である代わりに強い光を当てていないと遊べず、つまり部屋の中でゴロゴロ寝転がりがら遊ぶことができないというデメリットもありました。しかし、光に当てれば電気が生まれ、ゲームが出来るという科学実験を思わせる仕組みは、当時の子供達の心を捉えたものです。また、同シリーズはソーラーパワーだけでなく、2画面構成になっていることも特徴。なかでもこの『大脱走』は場面転換が秀逸で、私が特に気に入っている電子ゲームの一つです」

そう語るのは、電子ゲームに詳しく、任天堂研究家・コレクターとしても知られる山崎功氏である。

蛍光管表示(FL)式ゲームは電池の消耗が激しく、ACアダプタまで買ってもらえなかった子供達を泣かせた。他方、電池の持ちはよかった液晶式でもボタン電池は高価であり、電池代はやはりバカにできなかった。100円均一がまだ登場していない当時、子供にとって(大人にとっても)電池は消耗品にしてはなかなかの値段がするものであったのだ。

また、視点をエネルギー情勢に戻せば“未来のエネルギー”ともてはやされた原子力発電が、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故により大きくその存在が揺らいでいた、そんな時代の話である。「太陽にさえ当てればゲームができる」。この“夢のエネルギー”のわかりやすい実用化に、子供達の興味が注がれたことは想像に難くない。

なお、このゲームは「ソーラーパワー」を謳ってはいるが、室内灯でも条件を満たせば遊ぶことはできた。しかし、発電量の少なさ故、入力の度に画面表示が薄くなり、音も心もとないものになるなどのトラブルはつきもの。快適に遊ぶためにはやはり太陽光のあたる外で遊びたい。そこで携帯性を高め、また最も弱い部分である画面とソーラパネルの保護を目的にしたのだろう。本体は、2つに折りたためるようになっている。小さく折りたたんだものを展開すると、すごい能力を発揮する。このスパイのひみつ道具めいたギミックもまた子供たちにとっての魅力となっていた。

全く異なるゲーム性を持つ驚きの2パターン構成

さて、そのゲーム内容はというと、プレイヤーは囚人であり、看守の目をかいくぐって刑務所から脱走するというもの。通常、主人公は宇宙人や怪物と戦う善なるヒーローか、すくなくともハプニングに見舞われた無辜の存在であるがこのゲームでは自分が善人であるかどうかは疑わしい。同様のモチーフを持ったゲームは他にもあるが、いずれ、ピカレスク(悪漢)ロマンといった言葉もまだ知らない子供たちにとって、他のゲームにはない世界を感じさせるものであった。

ゲームはパターン1・牢の中ステージから始まる。プレイヤーは時折ドアを開けて様子を見にくる看守の目をかいくぐり、隠し持っていたノコギリで計3本ある鉄格子を順に切って外に脱出しなくてはならない。鉄格子は主人公が接触した状態で10回左ボタンを押すと切れるが、看守がドアをあけて中を見たときにはベットの位置につき、壁に貼ってある水着のポスターを見ているフリをしなければ1ミス、鉄格子は強制的に3本に戻る。

このゲームの世界では、脱獄の計画、すなわち鉄格子を意識している様子を見咎められないことが重要なはずであり、であれば主人公がベッドで寝たふりをする描画があれば十分なことになる。なのに、あえて「水着のポスター」を登場させる(子供向けゲームとしては)“ダーティー”な演出に、思わずニヤリとさせられる。

そんなこんなで、計3本の鉄格子を無事、切り落とせば次のパターンに進むことになる。

鉄格子を破った窓を抜けるとそこは第2のパターン・刑務所の壁の外だ。無数の警察犬が襲ってくる上に警官が壁の上から身を乗り出して銃を撃ちまくってくる。(警察犬、警官は説明書の表記通り。「看守では?」などの疑問はさておこう)

看守が見ているあいだは大人しくし、隙を見ては連打で鉄格子を切る。この「静と動」で成り立っていたパターン1とは違い、ひたすら「動」が要求されるのが、パターン2の特徴となっている。そうして画面左に時折やってくる仲間のトラックに乗ればまんまと脱出成功、500点のボーナスが入りまたパターン1に戻る……という流れである。

The Great Escape。単一画面ゲームからの、大いなる脱走

このように、『大脱走』は刑務所の内と外を舞台に展開するアクションゲームであるが、現在の携帯ハード機のように、画面はドットで構成されているわけではないのでその描画は不自由なもの。白(というか透明)黒の液晶画面のなかであらかじめいくつか用意したキャラの動きを描写する単純なパターンを点滅させるしかない。

そんな制約のなか、牢のステージのキャラクターと背景の一部を表示するための液晶画面、刑務所外のキャラクターと背景の一部を表示させるための液晶画面。この2枚の透明な液晶のパネルを重ねることで、1画面でありながら、バラエティに富んだキャラの動き、ゲーム性をもたらすことが可能になっている。

さらに、画面の再奥にプリントによって描かれた背景の使い方、そのアイデアの秀逸さにも注目しておきたい。牢獄のシーンではポスターが貼られた部屋の右壁の役割を果たしていた部分が、外のシーンでは脱走の際に使ったのであろうロープが上から垂れ下がった外壁として使われている。また、牢の鉄格子を支えていた左壁の上端は、下部に植え込みを配置することで今度は刑務所の壁の外を走る道路のカーブを描き出しているのだ。

変えることのできない絵でしかない背景が、液晶画面で描画を重ねて早変わりの舞台装置の役目を見事に果たす。当時のハイテクから、アイデア勝負のローテクまで。双方が詰まったモノとしての魅力に溢れる存在であることがお判りいただけただろうか。

電池の消耗を気にせざるを得ず、ステージ構成は1パターンのみで複雑な演出、場面転換ができない。そんな当時の電子ゲームの限界、いや、牢獄からまさに大脱走を果たしたのがこのゲーム『大脱走』なのである。

文:のび@びた
撮影:さとうひろき

<監修>
山崎 功(やまざき いさお)
任天堂研究家・コレクター、電子ゲーム・レトロゲーム好き。「懐かしの電子ゲーム大博覧会」「任天堂コンプリートガイド」など多数の著書あり。
https://twitter.com/yamazaki_isao
http://happy-today.org/nintendo/

“宇宙最速のあのヒーロー”ついにハリウッド実写映画化 『ソニック・ザ・ムービー』 青い光のシルエット

NEWS

GAME

2018.12.12 WED

1991年に記念すべきゲーム1作目が株式会社セガ・エンタープライゼスから発売され、目にも止まらぬスピードでゲームステージを駆け抜ける革新的なゲーム性と、音速で走る青いハリネズミ ソニックのクールなキャラクターが日本を始め、世界のゲームファンの心をつかみ、愛され続ける「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズ。

全世界でシリーズ延べ約8億人(ダウンロードも含む)が熱狂した日本発の大人気キャラクターがハリウッド実写映画化。その邦題が『ソニック・ザ・ムービー』(原題:Sonic The Hedgehog)に決定した。

『ソニック・ザ・ムービー』2019年11月に全米公開予定。日本公開時期は近日発表

本作は、宇宙最速で走るパワーを授かった青いハリネズミのソニックが、警官のトムとバディを組み、宿敵マッドサイエンティスト ドクター・エッグマンの恐るべき陰謀に立ち向かうべく、世界を股に繰り広げるアクション満載の冒険エンターテイメント。

ソニックとバディを組むことになる警官役には、『X-MEN』 シリーズのサイクロプス役で一躍有名スター入りを果たしたジェームズ・マースデン。そして、毎回ゲームでソニックを追い詰める狂気のマッドサイエンティスト ドクター・エッグマンには、『マスク』(94)などのエキセントリックなキャラクター演技が映画ファンの記憶に残るジム・キャリーが決定。一度見ると忘れないエッグマンの風貌を、どう再現するのか期待が高まる。

『ワイルド・スピード』シリーズのニール・H・モリッツと、『デッドプール』のティム・ミラーがプロデュースし、監督には2004 年に「Gopher Broke(原題)」がアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされたジェフ・フォウラーが、長編、そして実写初監督に大抜擢。才能溢れるキャスト・スタッフが揃い、世界的人気ゲームキャラクターにどのように命を吹き込むのか、映像の完成が待たれる。

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